2009年06月17日

カスタム考

APSカップに出場されている諸氏の銃を拝見させてもらうと色々と参考になることが多い。APSカップで他人の銃を見るのも私にとってAPSカップに出る楽しみの一つだ。特に思い思いにカスタムされた銃は見ているだけで楽しい。美しくペイントされた銃や各社のカスタムパーツ盛り沢山の銃、ショップでカスタムされた銃や原形をとどめないほどカスタムされた銃、また実用性のみを追求した銃などそれぞれ特徴的だ。カスタムされた銃を見ているとその人の個性が出ていると言うか、その人自身を象徴しているかのように雄弁に語りかけてくるのは気のせいだろうか?よく靴を見るとその人が判るというように、銃を見るとその人の射撃に対する思い入れが判るような気がする。

今回、私が話題にしたいのはカスタムパーツの話やカスタムの技法のことではない。


「あの人の銃はカスタムしてあるから当たるんだ。」とか「自分の銃はノーマルだから当たらない。」という話をよく耳にする。果たして本当にそうなのだろうか?仮に「ノーマル」の競技用の銃が当たらない代物だったとする。だとするとAPS競技自体成り立たず、APSカップなどとうに過去の物になっているだろう。競技用の銃を作っているメーカー側でもAPSカップを基準に銃を開発しているのだろうから、メーカーの威信にかけても「競技で使える」銃をリリースしているはずだ。現にハンドガンクラスではAPS-1グランドマスターの登場以降、ハンドガンクラスの得点は急激に伸び一時代を築いたと言って良いだろう。また、APS-3やKSCのAP/GPシリーズが発売されてもなお上位に入るポテンシャルがある。聞き伝えでは昨年のハンドガンクラスで入賞された方の中にはノーマルのAPS-1グランドマスターを使用していた方がいたと聞いている。

ところで、「カスタム」したら当たるようになるのか?これもまた、そうはならない事を恥ずかしながら私自身、実体験として知っているし、これを読んでいる諸氏の中にも心当たりのある方が居るだろう。
では、「ノーマル」で当たる銃あるのに、何故「カスタム」するのか?それは人には欲望があり、より当たる銃を欲して銃をカスタムするのではないかと思う。私自身もそのような願いから「カスタム」をしてきた。そのような願望があるからサードパーティーのカスタムパーツの需要があったり、そういったカスタムパーツを組み込んだり、オリジナルの加工を施した銃を売るショップがあるわけで、そういった需要に応じる事を生活の糧にしている業者もいる。私自身そういった「業者の売り文句」をそのまま真に受けて「無駄金」を使った事は枚挙に遑がない。ただ、そのことについて業者を批判するつもりはない。その理由については後述する。

何故「カスタム」しても当たらないのか?当然効果のないカスタムパーツを組んでも当たるようにはならないし、却って有害になる事もあるだろう。
しかしながら、ある人には効果があるカスタムがまた別の人には効果がないと言う事もある。「あの人の銃に組み込まれているカスタムパーツを自分の銃にも組んだけど、あの人の銃は当たるのに何故自分の銃は当たらないのだろう?」と言う話である。これは何故だろうか?当然パーツをポン付けしてもその効果は薄い。カスタムの経験のある諸氏なら言うまでもない事であろうが、パーツを組み込むまでには擦り合わせや調整が必要な事も多い。ただポン付けするだけなら原付バイクを弄くりまわしている少年にも出来るし、それで当たるようになると思っているなら、社外のマフラー付ければ速くなると勘違いしている自称「走り屋」君と大して変わらない。その程度ならステッカーチューンの方が余程マシというものである。
また「○○カスタムを買ったけど、全然当たらない」なんて話もよく聞く。「○○カスタム」と言った類の銃の中には、ただパーツをポン付けしただけの粗悪カスタムもまれに見受けられるのでカスタムされた銃を買うときには注意が必要である。

それでも、「擦り合わせや調整をしっかりやって組み込んでも当たらない」とか、信頼の置ける「ガンスミスの組んだカスタム銃を買ったけど、全然当たらない」なんて事もある。これはいったい何故だろうか?確かに擦り合わせや調整をしてパーツを組み込んだ銃は、銃としての性能を向上させている可能性が高い。実際に銃をレストして撃つと素晴らしい集弾性能を見せる事もあり、この時ほどカスタムしたことの喜びを感じることはない。しかし銃としての性能が向上しているはずなのに、実際に構えて撃ってみると思ったより当たらない。銃の性能差が精密射撃における成績の絶対的な差を生まないことは私自身、身をもって体験したことであるが、これは何故だろうか?それはたとえカスタムされて性能の向上した銃であっても、精密射撃(この場合APS競技)という「作品」の中では、単なる「素材」でしかなく、「作品」として完成させるには射手との組み合わせを考えなければならないと言う事ではないだろうか?つまり「『人に合わせた調整』をしなければ、カスタムされた銃も『宝の持ち腐れ』」であると言う事ではないかと私は思う。ただ「人に合わせた調整」自体、優れたガンスミスであればある程度射手に合わせた調整も出来るであろうが、最終的には射手にしか調整できない部分もあり、その調整にはそれなりの技量が要求されるし、無論その技量がなければそれ以前の問題である。

つまり私が言いたいのは、冒頭で書いた「あの人の銃はカスタムしてあるから当たるんだ。」とか「自分の銃はノーマルだから当たらない。」と言った議論は見当違いで、銃としてある程度の性能があることを前提に考えれば、「当たる」「当たらない」は「カスタム」の有無ではなく「調整」次第と言う事である。こう考えればノーマルのAPS-1グランドマスターで入賞したと言う話にも納得がいく。
また逆に言えば、調整すらろくに出来ないのに「ノーマルは当たらない」とか「パーツが悪い」とか「カスタムが悪い」と他者や物を批判するのは筋違いである。

しかしながら、「カスタムされた銃」を「人に合わせて調整」しても結果が出ない場合もある。これは悲劇的な事ではあるかもしれないが、驚くに値する事ではない。それは「カスタムされた銃」も「人に合わせた調整」も「作品」を完成させるための「ピース」の一つでしかないと言う事だからであろう。


最後に、この記事は某氏に対するアンチテーゼであるとともに、自己反省(批判)の文言である。




タグ :APS雑記戯言

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Posted by Mr.Seven at 21:16│Comments(3)雑記
この記事へのコメント
Mr.Seven様。初めまして。
非常に納得がいく内容の記事です。
私もAPS-2は、カスタムしていますが理由は、当たるようにする為ではなく。
当てられるようにするためです。
例えばトリガー位置やレスト装着など銃の精度自体は、変わらないですが体格やスタイルに合わせ撃ちやすくしています。
それにライフルクラスのオープンなので使いやすいサイトですね。
あとこれが最大の理由かも知れませんが。一目で自分の銃と分かるための個性ですね。
腕じゃなくてカスタムで勝負が決まるようなら仰るとおり、既に過去の物にAPSは、なっていると思います。
更に効果以前に好き嫌いの分かれるカスタムもありますしね。
私のAPS-2のトリガーはストロークが殆ど無く私は好きですが。このような遊びなしトリガーを嫌う人もおられると思います。
Posted by コウコウ at 2009年06月17日 22:03
こんばんは。

現在のAPSカップ・ハンドガンクラスにおいて成績を決めるファクターは射手が7割、銃が3割位の割合ではないかと個人的に思います。その中で現在のAPS競技用の銃はノーマルで2割5分程度の能力を既にもっていると言えます。(ライフルクラスはノーマル銃が競技銃の形になってないので6:4位の割合でしょうか)

ただ、その2割5分までノーマル銃の能力を引き出すには、それなりの技術と経験が必要です。また、万人向けの銃なのである程度自分が銃に合わせる必要もあります。

カスタムを志向する人の多くは、銃の方を自分に合わせることを考えていて、正しいアプローチだろうとは思います。しかし、「自分に合う」ことを実現するのは簡単ではなく、やはり技術と経験が必要になってきます。

最初はノーマル銃で射撃技術とセッティング能力向上を図り、ノーマル銃に足りないところが具体的に見えてきてからカスタムを考える方が成績向上の早道だと思います。

トリガー位置セッティング一つでも最適化するのには、私自身結構苦労しています。
Posted by MAGI at 2009年06月18日 00:08
コウ様
初めまして。いつもコウ様のブログを楽しみに拝見させていただいております。

>当てられるようにするため
私もカスタムの基本とはそういうものだと思っています。

>一目で自分の銃と分かるための個性
コウ様の銃は確かに会場では目立ちそうですね。カスタムにはそういう要素も必要だと思います。
でも、私はどちらかというと人見知りするタイプなので、あまり目立つ銃は恥ずかしいですw

>遊びなしトリガー
私の銃も1stステージを無くしています。好みの問題だとは思いますが、暴発の危険性も高くなるので他人には勧めませんが。

コウ様はオープンサイトで競技をされているのですね。私は目が悪いのでオープンサイトでの競技は難しいかと思っております。でも、ライフルでグランドマスターが取れたら、オープンサイトで参加するのも一興かと思っております。たぶんそんな日は一生来ないと思いますがw


MAGIさん
こんにちは。

>ノーマル銃の能力を引き出すには、それなりの技術と経験が必要
私もその通りだと思います。ノーマル銃に限らず、カスタム銃においても同じ事がいえるのではないでしょうか?却ってカスタム銃の方が弄ってある分、その能力を引き出すのが難しいかもしれませんね。

>銃で射撃技術とセッティング能力向上を図り、ノーマル銃に足りないところが具体的に見えてきてからカスタムを考える
その通りですね。この方が結果的に自身の能力向上と費用の面からも最も効率的ですね。弄るのが好きな人にとっては中々難しい事ですけどw
Posted by Mr.Seven at 2009年06月18日 12:27
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